2021年、会社員だった。個展をしたことがなかった。駒場東大前から渋谷への路にひとつの立て看板を配置し、そこに写真を貼った。貼り替えながらその看板と3時間移動した。それが初めての展示だった。

作用することと作用されることを恐れている。(非常勤の)講師を始めたが、同時に学生であることも始めた。人に影響を与える立場であり、与えられる立場でもある。人の考えや人生を変えようとすることほど大それたことはないと思う。
この8月、インドネシア、ジョグジャカルタの砂糖工場を訪れた。地域を支える産業であり二度の軍事利用を経て今も稼働するこの工場で、サトウキビを使い砂糖を作り始める際に行う儀式についての話を聞いた。ジャワ神秘主義の考え方に則った定例儀式であり、簡単に言ってしまえば自然や神に対して「必要以上のことはしないので、ほっておいてください」というお願いをするということだった。近くに水辺もないのに、小さなカニが歩いていた。少しつつこうとすると、工場の人に「ほっときなさい」と注意された。

サトウキビ
サトウキビを切り取ってくれた。噛むと汁が甘い。

出身地である北海道に根付く物事の捉え方を、アイヌの思想を引用して解釈する。アイヌにおいて神は万物に宿り、人はそれらと対等に交信することが可能である。必要以上に獲らず、誤って獲ったり迷い込んだものはその神を本来いるべきところに還す儀式をする。「ほっとくからほっといて」である。

私は今回の旅でたくさんの写真を撮った。風景を搾取した。その代わりに、北海道の写真をまとめた本を解体し、一ページずつ地域に見せて歩こうと思った。町はそれを見ても見なくてもいい。ジョグジャカルタ散歩写真展だ。滞在地からジョグジャカルタ王宮まで寄り道しながら3時間歩いた。手に写真を持ち、地域に見せる。その様子を町の人に撮ってもらった。そして写真を手渡した。勉強の道中として、この風景を展示する。